何かにぶつかった。どうやら僕は、ずっとカニたちを眺めながらぼんやり歩いていたようだ。
目の前のカニが怒った。思ったとおり頭がすれてテカテカのカニだった。
「怒」だ。
僕は思った。カニはしばらく何かをわめいていたが、放っておく事にした。
そのカニは僕の腕をもぎとって頭にのせ、いってしまった。
しばらくして、一群のカニが僕を見て笑った。
かわいそうな人達。
蔑み、愚弄、卑下。全ては「喜」に内包される。
かわいそうな人達。
僕はどうやら泡を吹いたカニだったようだ。だから、
もう死ななくてはならない。
こうしてひっくり返っているうちに、気づいた事がひとつ。
このカニの群れは、カニたちは前に進んでいる。
気づいたとたん、僕の喉のもっと奥のほうから、泡が吹き出して来た。
悪臭がする。かわいそうな人達。かわいそうな人達。
完