家から逃れて街を歩く、天気は薄暗く秋風はよりいっそう冷たい。
落ち葉も水溜りもなく、アスファルトの上をビニール袋が過ぎ去った後は、ただ人の群れがあった。
僕は行きかう人たちを見つづけていた。アスファルトはただの一言も発することは無く、
それでもあたりはざわめいていた。
カニの群れだ。
僕は思った。ざわついているのは甲羅と甲羅とがすれる音で、関節が上手く曲がらないのだ。
目も、想像どおりに曇っている。意味ありげに黒い瞳孔を左右にはわし、それで終わり。顔も大同小異。
違いはあれど、どれもこれも固まってしまっているのだからしかたがない。
ただ数パターンの表情を交互に見せる事に苦労し、さも涼しげに「ハイ、これが今の私です。
すなわち喜怒哀楽の喜です」とさらけ出す人を尊敬しながら、彼らはゆく。
純粋で無垢な人たちだ。
人間はああでなくてはならん。
感情動物―――